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2024.02.06
「健康をめざすアート公募展」第1回優秀賞受賞者 カモタオユコさん誕生秘話 前編
カモタオユコさんの生みの親
田中裕一(たなかひろかず)さんプロフィール
介護福祉士 臨床美術士
埼玉県出身
江戸川学園おおたかの森専門学校(旧:江戸川大学総合福祉専門学校)卒業
現職:介護老人保健施設 春陽苑 統括主任介護士
*記事中に出てくる「臨床美術」とは
臨床美術は、絵やオブジェなどの作品を楽しみながら作ることによって脳を活性化させ、高齢者の介護予防や認知症の予防・症状改善、働く人のストレス緩和、子どもの感性教育などに効果が期待できる芸術療法(アートセラピー)のひとつです。
(特定非営利活動法人日本臨床美術協会HPより)
- 健康とアートを結ぶ会(以後Q):
- 「健康をめざすアート公募展」第1回優秀賞を受賞したカモタオユコさんは、介護老人保健施設 春陽苑で田中裕一さんが指導する臨床美術講座に参加し、受賞作「二人で描く線と色の抽象画」を制作した6名の頭文字から名付けられた名だと聴きました。今日はその経緯をお話しください。よろしくお願いします。まず最初に田中さんが介護福祉士になった動機を教えてください。
- 田中裕一さん(以後A):
- 高校在学中に祖父が入院した際、祖母や看護師さんがケアする姿を見て、自分もそうした仕事に就きたいと思ったのが動機です。
- Q:
- 具体的には、看護師さんさんたちはどのようなケアをしていたのですか?
- A:
- 色々ありました。例えば祖父の髭が伸びていたのを祖母や父、看護師さんが剃ったり、顔を拭いてあげてるのを見ていました。でも、高校生の自分には何もできないなと思うともどかしかったので、将来はこうした環境で人の役に立ちたいと思い、介護福祉士の道を選びました。あの経験が一番大きな原動力になりました。また年上の従兄弟が介護の仕事をしていたので、その分野の情報が入ってきていたのも一因です。
- Q:
- 田中さんは優しい性格ですか?
- A:
- 極論かもしれませんが、優しくなければ介護福祉士は出来ないと思います。僕の場合は、人に何かをして感謝されるのが、エネルギーになっています。学生時代、それぞれが得意分野で勉強の教え合いをしたけれど、そうしたことが好きだったのも関係しているかもしれません。
- Q:
- 介護福祉士の仕事内容は?
- A:
- 利用者様の食事や入浴・排泄など身体介助や余暇活動の実施が主な仕事です、例えば、お昼を食べた後、時間があるのでレクリエーションしたり、僕が働く春陽苑はリハビリも行う施設なので、介護士ができるリハビリの提供もあります。
- Q:
- 実際に介護をしていてどうですか?
- A:
- 表現が難しい感覚的な問題ですが、僕は日頃から介護の仕事をしているのではなく、利用者様と一緒に遊んでいる感じでやっています。つまり利用者様とおしゃべりをしたりしてふざけあって楽しむことが一番の介護で、そこに食事とか入浴の介護がおまけでついている感じです。
- Q:
- かなりユニークな発想ですね?
- A:
- 確かに一般的に捉えられている介護のイメージとは違うと思います。
- Q:
- その田中さんの思いは利用者様にも伝わりますか?
- A:
- はい、比較的笑顔で応じてくれます。機嫌が悪い方も少し話をすると自然に表情がほころんできますが、ただ意図的にやっているわけじゃありません。普段から僕自身が明るいキャラクターなので、その性格とやりたいことがマッチしているのだと思います。もちろん介護は大変な事もありますが、大変大変と思うと本当に辛くなるので楽しい所だけを記憶に残しています。
- Q:
- 良い意味でのテクニックですね。
- A:
- そうかもしれません。とにかく嫌なことは次の日に忘れることにしています。まぁ、持って生まれた性格が良く作用していると思っています(笑)。
- Q:
- そうした仕事の現場で臨床美術士になったのは何時ですか?
- A:
- 正式に資格取得したのが、令和5(2023)年の4月です。
- Q:
- 動機は?
- A:
- 資格取得の前年度2022年秋にここ春陽苑で臨床美術の体験会がありました。私以外にもいろんな部署から参加して実際に一つのプログラムを体験させてもらったら、それが楽しくて分かりやすかったのです。
- Q:
- どんなプログラムだったのですか?
- A:
- 鉛筆で漢字をデザイン化するプログラムで、僕は好きな「金」の字を選びました。それで作品の出来上がりで自分自身の表現を簡単に表すことができたことが楽しかったし、臨床美術の特徴として作品制作後に鑑賞会と言ってお互いの作品を見て褒め合うと言うプロセスがあり、それがかなり良かった。褒められると人間誰しも嬉しいし、前に進める気がしたのです。そうであれば、認知症のご利用者様や高齢な方でも理解しやすいと思ったのが臨床美術士を志すきっかけです。苑長からやんわりと勧めもあったので、介護の仕事の一環として資格取得を目指しました。
- Q:
- 確認ですが、鑑賞会は褒め合うだけなのですか?
- A:
- そう、褒めるだけです。作品の良し悪しを言うにではなく、描かれた内容や色など具体的に指摘しながら褒め合います。つい色んな作品があると見比べたくなりますが、それはなし。「全部素敵だよね」から始め、「色が綺麗、デザインが良い」それぞれに褒める言葉がけをします。だから失敗しても指摘されず、褒められるだけなので自己肯定感が高まります。加えてオトナになってからモノを作って褒められるのはそうそうないから心地良かったです。
- Q:
- それまで施設で美術的な活動はなかったのですか?
- A:
- いいえ、工作したり色塗りすることはありましたが、作ったら終わりでした。でも、その先にあったのが臨床美術だったのです。つまり、褒められるので次に挑みたくなり、意欲も出てプラスの連鎖が生じ、利用者様がより楽しめる環境になるのです。それを僕もしてみたかった。
- Q:
- 臨床美術士の講座は?
- A:
- 2023年の1月から3月まで隔週土曜日に1回6時間、月2回計6日間、東京のお茶の水で受講し、資格がステップアップ性なので、僕は最初の5級を取得しました。
- Q:
- 講義内容は?
- A:
- 講義の半分ぐらいが基本のプログラムの演習だったので、楽しかったです。でも臨床美術が始まった経緯から根幹について学びながら指導を受けたので、臨床美術の世界に対する理解が格段に深まりました。
続く
(取材日:2024年2月5日 場所:春陽苑 構成・撮影:関幸貴)