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2023.08.23
当財団代表理事 宮島永太良が、 第1回「健康をめざすアート公募展」最優秀賞受賞者 吉澤幸子さんにインタビュー
吉澤幸子(よしざわさちこ)さんプロフィール
1947:東京生まれ
1968:トキワ松学園女子美術短大(現:横浜美術大学)美学美術史科 卒業
2022:吉澤幸子展 〜青い海から、青い空へ〜 を京橋のギャラリイKで開催
2023:第1回 「健康をめざすアート公募展」作品「火傷」で最優秀賞受賞
- 宮島永太良(以後M):
- 制作活動をされて、どのくらいになりますか。
- 吉澤幸子さん(以後Y):
- 今から4年前(2019年)がはじめてです。アーティストの内海信彦先生と出会い、先生が早稲田大学で主催されている「ドロップアウト塾」から絵画研究会に内海信彦先生から、貴女のエネルギーを作品にして見てはとお誘い頂き初めて絵画を描き先生に見て頂きました。その後ギャラリーKでグループ展や新人展に参加したのですが、その時がはじめての作品制作になりました。
- M:
- それ以前にアートに対する興味、いつか制作してみたい、というような思いはありましたか。
- Y:
- 実は私の通っていた高校は美術史に力を入れている学校で、私が卒業する時に、美術短大を作りました。その時の短大の修学旅行は、ヨーロッパの美術館鑑賞旅行でした。その頃から多くの古典的作品を見る機会はありました。また海外に初めて行き、日本に戻りたくないと思うほど、海外に憧れました。しかし作品制作に関する知識は全くなく、子供の頃から絵は下手と思っていました。まさか今頃、絵画を制作するようになるとは思ってもいませんでした。
- M:
- その時制作されたのは、どのような作品だったのですか。
- Y:
- 自分の身体に墨を塗り、そのまま紙に体を和紙にぶつけました。その時は特に、胸の部分に墨をつけて強調しました。かつて死産して、しばらく母乳が溢れて悲しい経験をしました。
- M:
- いわゆる「人拓」のような作品になると思いますが、現代美術の世界でも時々見ることがありますよね。
- Y:
- はい。でもその当時は現代美術の基礎知識はほとんどありませんでした。個展の時も「これはイブクラインだね」と言われたのですが、その時は恥ずかしながら有名な作家の名前も知らず、あとで画集などで確認した有様でした。
- M:
- 今回の公募展もそのタイプの作品を出品され、最優秀賞を受賞されましたが、タイトルが「火傷」でした。「火傷」をテーマに選んだのはどういう経緯からですか。
- Y:
- 実は私の作品から、大道あやさんを連想された方がいたのが始まりです。大道さんといえば、「原爆の図」の作者・丸木位里さんの妹さんで、実際に広島で被爆されました。絵本作家であり綺麗で美しい絵がほとんどですが、90歳を過ぎてからほんの数点だけ原爆の絵を残しています。それから「原爆の体験とはどんなものだろうか」と考えるよになったのです。偶然、友達の家族で爆発事故にあい、大やけどをした方がいて、いかに火傷との戦いが悲惨で大変である事を身近で知りました。おそらく原爆はその比ではないだろう。そう思って、せめて自分が原爆で被爆した気持ちになって、はじめて背中に墨を、しかも衝撃をあらわす赤の墨を塗ってイメージを作ってみました。その中の1点が、今回公募展に出品したものです。額に入れると規定の出展サイズを超えてしまうため、額装をしていないものから選びました。
- M:
- かえって額に入っていなかったことが、目新しさと相まって、授賞に繋がったかもしれませんね。今回、最優秀賞を受賞されて、「健康」というものに対して何か考えられたことはありますか。
- Y:
- 私自身は今まで大きな病気にかかったことはないのですが、今回こうした公募展に参加するにあたり、「すべては体が健康でないとはじまらない」ということがあらためてわかったように思います。
- M:
- 病気や怪我といった面から健康を考えることで、その大切さが実感できるということですね。ところで吉澤さんは先日、先にお名前のあがった内海信彦先生主催の研修ツアーでポーランドに行かれたそうですね。
- Y:
- はい。そこでは大変大きな影響を受けました。高校生、大学生の方々が中心で、そこに私たち社会人も何人か参加した形でした。今回のワークショップで、自分が得たものは何かを考えた時、大きく分けて、先生のコペルニクス生誕550年への個展の参加と、歴史上最も残虐で人間の本質を問われる独裁者による戦争の実態と残された証拠の数々を、この目で見た事だと思います。遠い国の物語ではなくなったのです。特にコルベ神父が死刑を宣告された捕虜の身代わりになった逸話については、大きく考えさせられました。人間は屈折したり、いろいろあると思いますが、究極の状態になった時、ヒトラーのようになるかコルベ神父のようになるかにかかっていると思いました。その中間で流されてしまう、というのが一番多いわけですが、やはり自分は何をすべきか、どう生きるかをもっともっと考えるべきだと認識しました。
- M:
- 吉澤さんにとって、世界で起こって来た悲劇、そしてその中に見る葛藤を昇華することで、現代を生きる人々へのメッセージを作品にしていると言えるでしょうね。ありがとうございました。
(取材日: 2023年8月23日 場所: Meets Gallery 撮影 : 関幸貴)